東京でも、ヒガンバナが咲き始めました。ヒガンバナ(彼岸花)は、ヒガンバナ科の多年草です。地域によって、「マンジュシャゲ」、「シビトバナ」、「テンガイバナ」、「ジゴクバナ」などさまざまな名で呼ばれる植物です。
日本に生息するヒガンバナは三倍体で、種子を作らず
ヒガンバナ、赤い独特な花はよく見かけますが、種を見たことはありますか?
実は日本に咲くほとんどのヒガンバナは種子をつけません。なぜでしょう。日本に生息するヒガンバナは、ほとんど「三倍体」なのです。通常の植物は、遺伝情報を含む「染色体」を2セットもつ二倍体です。私たち人間も二倍体ですね。
子は染色体を、父から1セット、母から1セットを受け継ぐわけです。父母は、子孫を残すために自分が持っている染色体を半分にします。これを「減数分裂」といいます。学校で習った!という人も多いでしょう?
しかし、ヒガンバナは染色体を3セットもつため、染色体を半分に分ける「減数分裂」がうまくいきません。そのため、子である「種子」ができないのです。
ではヒガンバナは増えないのでしょうか。そんなことはありません。ヒガンバナは、球根が分球して増えていきます。そして、球根が生き物に掘り起こされたり、雨水に流されたりすることで、少しずつ分布が広がっていくのです。今、日本全国でヒガンバナが見られるのは、人の手によって植えられ広められたから、と考えられています。
ヒガンバナがいつから三倍体なのかは諸説あるようです。中国には、二倍体で種子をつけて繁殖するヒガンバナが生息しているので、日本の個体も中国由来なのでは、という説が有力です。
雑草を枯らす毒をもつ
昔は、モグラよけのために田畑のあぜ道によくヒガンバナが植えられました。球根にリコリンという毒が含まれているためです。モグラよけの効果は真偽不明ですが、周囲の雑草を抑制する効果があることは確認されています。
ヒガンバナがお墓の周りに咲いているのをよく見かけますよね? それも諸説ありますが、モグラやネズミ除けのためだったのでは、と考えられるそうです。お墓が小動物に荒らされるのを防ごうとしたのですね。
ほかに、ヒガンバナの毒は水にさらすと抜くことができるため、何かあった際の非常食としても重宝されました。だから、日本全国にヒガンバナが広がったのかもしれませんね。(といっても、ヒガンバナの毒を食べると、人も嘔吐・下痢などの症状を引き起こします。適切に毒が抜けないと大変危険ですので、食べないようにしましょう)
花が咲いているときに葉は生えない
ヒガンバナの花をよく見てみましょう。
ヒガンバナの一つの茎(花茎)には、6つほどの花が丸く並んでいることがわかります。1つの花に花びらは6枚。長いおしべが6本、短いめしべが1本あります。開花期間は1週間ほどと短いので、ぜひこの時期にじっくり見てみましょう。
花のついた茎もよく見ると不思議ですね。茎(花茎)には葉も節もありません。地面からすっと茎だけ伸びた姿が印象的です。1日に数cmのびることもあって、私(伊原)も気付いたら毎日通る道にヒガンバナの茎が伸びてきていてびっくりしたことがあります。
では、葉はないのでしょうか。ヒガンバナは、花が咲いているときは葉の姿はありません。でも花が咲いたあとに、ロゼット状に細長い葉がたくさん出てきます。ロゼットとは、タンポポの葉のように地面から放射状に葉が広がる形態のことをさします。ただしタンポポとは葉の形が大きく違い、タンポポのようにギザギザした形ではなく、すっとした細長い葉の形をしているので、タンポポのよう、と思って探すと見つからないかもしれません。
丸く茂った葉をみて、これがヒガンバナだったのか、ときっと思うはずですよ。