予防接種を打つのか、打たないのか、という日常の話の中で必ず話題になるのが、どれくらい効果があるのか、予防接種を打ったらかからないのか、という話です。
予防接種の効果って?
これは本当にワクチンの種類によるので、どの病気を予防するためのどのワクチンかによって、さまざまです。あと、予防接種を打っても免疫がつかない、という場合もあります。
とある免疫学者の先生から、ざっくりと1割くらいはどんなに予防接種を打ってもほとんど免疫がつかない人がいる、と伺ったことがあります。
それぞれの病気の予防接種に対して1割なので、あらゆる病気の予防接種に免疫がつかない人がいる、というわけではありませんので、ご安心を。2回、3回と打つと免疫がつく人は増えるのですが、何回打っても免疫がつかない人もいるそうです。人の体って不思議だなと思ったことを覚えています。(だからといって予防接種を打たなくていいという話ではありませんので! また、予防接種の効果は病気ごとなので需要があれば別記事にします)。
ウイルスが増やせないとワクチンは作れない
新型コロナウイルス(2019−nCoV)の感染が拡大するなか、ワクチンの開発が進められています。日本の国立感染症研究所や他国の研究機関が、ウイルスの培養に成功したというニュースが大きく報道されました。
なぜ培養できたことがニュースになるのかというと、そもそもウイルスはそれ自身だけでは増殖できません。細胞に感染しないと増えられないのです。
ウイルスからタンパク質を精製したり、作成したワクチンの効果を試したりするためには、大量のウイルスやウイルスが細胞に感染する状況が必要になります。そのため、ワクチンを作るためには、「ウイルスを細胞に感染させて培養ができること」は必須なのです。
培養くらい簡単にできるだろう、と思う人もいるかもしれません。
それがそう簡単でもないんです。例えば、胃腸炎の原因として有名な「ノロウイルス」。現在もまだワクチンはありませんが、その大きな要因がウイルスの培養ができなかったから、と言われています。しかしこれも何十年という研究の結果、ようやく2016年に培養が可能になりました。
ということで、ウイルスの培養ができるというのは、ワクチン開発(や、抗ウイルス薬の開発)にとっては大きな一歩となるわけです。
アプローチはさまざま。ベンチャー企業の開発競争
すでに、アメリカのベンチャー企業を中心に急ピッチでワクチンの開発が始まっています。日本の厚生労働省も感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)を通じてそれらの開発の支援をしています。
ワクチンの開発方法もさまざまです。免疫細胞が目印とできるようなウイルス表面のタンパク質(抗原)をゲノム配列から探して精製したり、2019−nCoVの遺伝子を別のウイルスに入れて偽ウイルスを作ったり、などなど。各企業が有用と思われる方法で探索を続けています。
開発は急ピッチで進められていますが、早くても数ヶ月はかかるでしょう。人に試験するまでには、さらにもう少し時間がかかると思われます。
SARSとは異なり、新型コロナウイルスは潜伏期間が長いので、世界的な流行も長引くと考えられています。ですから、時間はかかってもワクチン開発や抗ウイルス薬の開発は、きっと重要な意味をもつことになるに違いありませんね。
2020年2月3日付のイギリス科学雑誌『nature』に、中国科学院のグループが、2019−nCoVは細胞に感染する機構がSARSと似ていることを発表しました。感染の足がかりとするヒト細胞のタンパク質が同じだということです。もしSARSに対するワクチンや治療薬(こちらも実用化されているものはまだないが)が使えるのであれば、ワクチンや治療薬の実用化が早まるかもしれません。
研究しても研究してもワクチンが作れない病気も
コロナウイルスに対してだけでなく、さまざまなワクチン開発が世界中で進んでいます。
例えば、致死率が50%を超えると言われる「エボラ出血熱」。アフリカでは、たびたび爆発的な流行が発生しています。新型コロナウイルスの前に、WHOが緊急事態宣言を出したのも、エボラ出血熱に対してでした。
エボラ出血熱に対しては、ようやく2018年にワクチンが臨床試験段階となり、コンゴ民主共和国で、試験的な投与が始まりました。エボラ出血熱のワクチンは日本でも開発が進められていて、東京大学のグループがすでに日本国内で人への臨床試験をスタートさせています。
エボラ出血熱に対しては、治療薬も臨床段階にあり、もうすぐ予防も治療な可能な病気となるかもしれません。
エボラ出血熱のように開発に成功しつつある病気もあれば、何十年と開発が続くけれど、完全なワクチンができていない病気もあります。その一つが、マラリアです。マラリアは、蚊が媒介するマラリア原虫がヒトに侵入しておきる病気です。マラリア原虫の複雑な一生からワクチン開発が難しく、ずっと研究が続けられてきました。
これまで「RTS,S/AS01ワクチン」について、アフリカで臨床試験が行われており、乳幼児に3割から4割程度、マラリア発症予防の効果が見られています。臨床試験の結果、有効性は少し低いものの、マラリアは乳幼児の死亡例が多いことから公衆衛生上の効果はあると判断され、アフリカの一部の国ではWHOにより「RTS,S/AS01ワクチン」の投与が始まっています。
しかしやはり完全なワクチンとは言い難く、現在も、さらに有効性が高いワクチンについて研究が行われています。
何十年研究しても、ワクチン開発が成功しない、そんな病気もあるわけです。そして新型のウイルスは今後もぞくぞくと登場するでしょう。病原体と人類との戦いはやはり難しいものがありますね。
[…] 実は難しい!? ワクチン開発と予防接種のはなし […]